福岡高等裁判所 昭和29年(う)167号 判決
しかし、前示同条に所謂戸別訪問とは、選挙に関し、候補者に投票を得しめる等同条所定の選挙運動をなす目的をもつて、戸別に選挙人を訪問することにあるから、連続して数人の選挙人方に赴き、たまたま候補者のため投票方を依頼した事実があつても、その訪問が純然たる他の所用の目的をもつてなされたものであるときは、これを単なる個々面接ということができるけれども、いやしくもその訪問について、候補者に投票を得しめる目的がある限り、他の用務を併せ有し、または他の用件に仮託した場合においても、まさに戸別訪問に該当するものと解すべきである。ところで、原判決に挙示の証拠を綜合すると、判示選挙に際し、小松幹は大分県教職員組合の幹部の一人として、同県労評から推されて立候補した関係から同県教組速見郡支部においては同人を支持することに決し、被告人の勤務する杵築小学校の職員間でも、その線に添うて協力することを協議し、ここに被告人は同候補に投票を得しめる目的で担任する児童の家庭に赴き、保護者に対し投票方を依頼しようと企て、たまたま学校図書館の寄附金領収書を交付する等の用務を利用して、学校行事として学庭訪問を実施することに仮託して、五十名余の児童の家庭のうち四十戸位を訪問し、同候補のため投票を依頼することに差支えなく、或いはその効果があると思料される判示各戸において、それぞれ同候補に投票され度いとの趣旨を申し述べた事実を肯認するに充分であつて、論旨は、被告人が当初は同候補のために投票を依頼する目的ではなく、専ら学校行事として止むなく家庭訪問をしたもので、その際一部の訪問先で、談たまたま選挙の話が出たに過ぎないというにあるが、これを首肯せしめる証拠は記録上見当らず、論旨指摘の各証拠によつても、右認定を左右するに足りないから、被告人の本件所為は、判示のとおり戸別訪問をなしたものということができることは前に説示したところからして、自ら明白である。
(後略)